以前、三宅島レースは断念というエントリーを書きましたが、その続き。
結局、(少なくとも今年は)レースという体裁をとらずに「三宅島バイクフェスタ(仮称)」を開催する予定のようですが、ホンダが協力を辞退したとのことです。
引用元にもありますが、問題になったのは石原都知事の7月27日の定例記者会見での質疑応答らしい。
※ちなみに、東京都のサイトではこの会見のテキストと動画の両方を用意しています。こういうところは「都はえらいねえ」と思いますし、ネットの便利さを再認識させられます。
本題に戻ると、知事はこんなことを言っている(動画では22分10秒くらいのところ)。
【記者】二輪車雑誌のほうで伺いたいんですが、三宅島のオートバイレースについてなんですけれども、タイムスケジュールが大幅に遅れているようですけれども、この件についてどう思うかということ。あと三宅島復興に役立つということでしたが、残り11月までなんで、大分少なくなっておりますが、その点についてどう思うかということです。
【知事】昨日もね、あなたの同業の雑誌にインタビューを受けたんですけどね、やります、それは。形を少し変えてでもね。
(中略)
【記者】2回目からは公道レースのようなものもやると。
【知事】やります。それで、人に迷惑かけない、危険のない公道で使います。たまたま、そういうものがありますから、あそこには。
1回目となる今年はやらないけど、来年以降はレースをやると、きっぱりと断言している。最初の引用元に戻ると、これを知ってホンダは協力を辞退した、という構図のようです。
うーん、なんだかなあというのが個人的な感想。これってどうにかならんのですかね。
おそらく、協力辞退までに至ったのには、石原都知事の言い方にも問題があったと思います。まあ、過去にもいろいろ失言問題(本人はそう思っていないかもしれないが)があった都知事なのですが、こんなことも記者会見ではしゃべっている。
それから、断っておきますけどね、危険なことは、危険なのはわかっているし、それはマン島でもこの間亡くなった、人が。だから公道レースが危ないというけど、しかしやっぱりサーキットだって人は死んでいるわけですよ。それはね、みんな危険覚悟でやっているんです。そこにやっぱり人間の面白さ、意味があるんでね。人が死んだから一切物事をやらないということだったら、何の進歩も何もないでしょう。
確かにそうかもしれないけど、 公道の安全性を問題視するメーカーと都が協議を進めている時に、都知事にこんな言い方をされたら、メーカーも立つ瀬がないというか、まとまる話もまとまらんですよね。
しかし、です。だからといって協力辞退をすればそれでいいんだろうか?
「君子危うきに近寄らず」などと言いますが、ホンダとしては、危険がありそうなイベントからは手をひくことが賢明な態度であると判断したということでしょうか。ただ、三宅島サイドではそうも言ってはいられない訳で、小林ゆきさんのブログによると、三宅島バイクフェスタ・サポーターズクラブの説明会ではこんな説明があったそうです。
・(NPO法人理事長の悲痛な叫び)……高齢化率40%、若者がなかなか戻ってこない、そして災害、全島避難。われわれは全国に三宅島の名前が響くであろ
うこのバイクイベントにかけている。バイクファンのみならず、観光客にも楽しんでもらう、一人でも多くの人が三宅の自然にふれ、往復するようなかたちに
もっていきたい。末永くイベントを続けていきたいと考えている。・サーキットを作っては、という意見があるが、サーキットは離島の振興にはつながらない。末永く振興につなげるには文化の創造がいる。開かれた公道を使
い、住民との信頼をつなげたい。「公道」を使ってなにかやるということに意味がある。公道を使ったイベントを通じて住民とライダーとの間に「文化」が生ま
れ、「安全」に意識が向いていけばいいと考えている。(都庁)
こうした意見に答えてあげてもいいのになあとは思うんですよね。もちろん、1企業が島の復興に協力する義務なんてない訳だし、島の振興策ってのは、バイクと関係ないものも他にいろいろ考えられるでしょう。ただ、当事者である島がバイクのイベントに復興への活路を見い出したのに、メーカーが協力を辞退するってのは、男がすたる(いや、「女がすたる」でもいいんだが)話ではないですか。弱小メーカーが「金がない」って言うのならまだ分かるけど、ホンダはバイクではシェア1位な訳で、いくら都知事が変なことを言ったからって、それで決裂することの方がよっぽど大人げない気はする。
ちなみに、石原都知事の言っていることは趣旨が曲解されそうなのですが、何も「危ないことがいいことだ」と言っている訳でもない(、と俺には思えるんですが)。 さきほどの
人に迷惑かけない、危険のない公道で使います。
という発言のほかにも
非常に危険なね、何ていうのか、絶対やっちゃいけないもんだったらやりませんよ。
ということもおっしゃっている。都の役人だって馬鹿じゃないんだから、知事が何言おうが、安全性は考えているということでしょう。
この話で面白いというか、あべこべだと思うのは、公務員の方がレース主催に関しては前向きで、(きっと)リスクも踏まえて行動しているのに対し、ホンダの方が守りに入っているように見えること。「何もしなければ、ダメージを追わない」などということは、必ずしも真実ではない(=不作為がダメージを生む)なんてことは、ビジネスの世界ではよくあるんですけどね。
例えば、(もうそんなことをする時間的余裕はないと思うけど)三宅島や都が「バイクメーカーの協力が得られなかったので、もうバイクのイベントはあきらめました。代わりに、地球に優しい自転車のレースを実施します」などと発表し、結局イベントは成功をおさめ、島の発展につながっていった――なんてことになったらどうするんでしょう(かなり楽観的なシナリオですけどね)。「三宅島TT」ではなくて「ツール・ド・三宅島」(ホントにこう言うのか?規模が全然違うし……)にしてしまう訳です。
そんなことになったら、「ホンダがビビって辞退してくれたおかげで、自転車のイベントは成功できた」みたいな言われ方をされますよ、きっと。
本来、バイクという乗り物は、「人が挑戦する姿勢」や「リスクをとってでも成功をおさめようとする気持ち」なんてものとは、相性が良い乗り物なのだと思う。それなのに「なんで?」としか思えない訳です。本当に事故が起こりそうだったら、例えばレースの参加車両を「50cc限定」(意外と面白いのでは?)にしてみるとか、一定のスキルを持つバイク乗りしかレースに参加できないようにする(レースに参加できることに名誉と意義を与え、安全運転のスキルアップに努めてもらう一助とする)とか、やり方はいろいろあると思うんですけどね。
最後に、どうしても気になることを1つ。
ホンダはマン島のレースには参加するのに、なぜ三宅島のイベントは辞退するんでしょうか?
マン島のレースは死者、出てますよ。何が違うんだろう。「レースで死者が出ても寛容な国では参加するけど、日本はそうではないから協力しない」ということですかねえ。お約束で陳腐な言い方ですが、本田宗一郎が今、経営陣にいたとしても、三宅島のイベントへの協力は辞退するんでしょうか。
※最後にいろいろ気になったことを。
- 別にホンダをけなしたい訳ではないですよ、念のため
- ネタ元がガセネタだったりすると、このエントリーは身も蓋もないなあ
- 石原都知事が受けた「バイク雑誌のインタビュー」は、ぜひ読みたい(どの雑誌だ?)
- ホンダが協力を辞退したのが本当だとして、その場合、残りの国産メーカー3社はどうするのだろう